電話

 稽古後、本谷有希子と私は一緒にバス停まで行きました。皆とは方向が違うため、私たちは二人きりです。バス待ちで手持ち無沙汰になった本谷有希子はおもむろに電話を掛け始めました。聞き耳をたてるつもりはなかったのですが、電話をする本谷有希子の声が自然と耳に入ってきたのです。どうやら多門さんにダメだしをしているようです。
 「あ、もしもし、本谷ですけど。おつかれ様です。さっき伝え忘れちゃったんだけど、今言っても大丈夫ですか?……えっとやっぱ、トム・ハンクスは修学旅行に行かなくていいです。はい。じゃ、そういうことで。」
 くしくもバス停は大学病院の目の前。本谷有希子、退院した矢先に発症したおかしな人みたいになってました。